脳卒中の応用知識
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D-09.脳腫瘍に対する術前塞栓術

脳腫瘍の術前塞栓術とは?

手術の安全性を高めるために行います。

血管が豊富な脳腫瘍の摘出術では、出血が多量になることがあり、血圧の低下や輸血が必要になります。そのような場合、手術時間が長くなったり、摘出ができなくなったり、脳損傷のため、意識障害、運動機能障害、感覚障害、失語症、構音障害などの後遺症を残す可能性があります。

術前塞栓術は、術中の出血を減らし摘出術の安全性を高めるために、術前に出血源となる血管を閉塞する血管内治療です。

脳腫瘍に対する術前塞栓術
図1:術前に出血源となる血管を閉塞する血管内治療

適応する疾患

  • 髄膜腫
  • 血管芽腫
  • その他血管が豊富な腫瘍

脳腫瘍の術前塞栓術の方法は?

カテーテルから塞栓物質を注入し、腫瘍血管を閉塞します。

治療は血管造影装置のある特別な手術室で行います。

麻酔の方法(全身麻酔or局所麻酔)は塞栓する血管によって選択されます。足の付け根からカテーテルを血管内に挿入し、レントゲンと造影剤を使って透視しながらカテーテルを腫瘍の近くの血管まで進めます。ここで腫瘍血管と周囲の血管との関係を完全に把握するために脳血管撮影を繰り返します。これは大事な血管を詰めることなく腫瘍血管だけを閉塞させるために必要な情報を得るためです。以上の行程を繰り返しながら、腫瘍血管を同定し、塞栓物質を注入していきます。

できる限りの腫瘍血管を消失させ、塞栓を完成させることになります。治療後はカテーテルを抜去し、穿刺部を止血して、麻酔を覚まして専用病棟へ帰室します。

通常、塞栓術後の1週間以内に腫瘍の摘出術を行います。

塞栓物質の種類について

  • コイル
    太い流入血管や動脈瘤の閉塞に使用します。
  • エンボスフィア(粒子状)
    ゼラチン状の粒子です、腫瘍内の血管を閉塞します。術前塞栓術の認可がありますが、粒子自体はX線透視下でみることができません。
  • NBCA(液体)
    X線透視下で視認できるため、分布を確認しながら閉塞ができます。しかし日本では塞栓物質としての認可がありません(外科用接着剤、胃静脈瘤用塞栓剤として認可済み)。海外では塞栓物質として認可されており、日本でも20年以上前より使用されています。コイルやエンボスフィアより、安全で有効な状況があり、ご本人とご家族に同意がいただければ使用します。
  • 脳腫瘍に対する術前塞栓術

術前塞栓術の危険性

  • 正常脳血管の閉塞による脳梗塞
    塞栓物質や血栓が正常血管に迷入すると脳梗塞を起こします。(2%程度)
  • 脳出血・腫瘍内出血
    塞栓術では、カテーテル、それを誘導するガイドワイヤーなどの治療機器を脳の血管に誘導します。治療機器は脳の血管に安全に誘導できるように細く柔軟にできていますが、血管には予測できない個人差や疾患による脆弱性があることがあります。また塞栓術中や塞栓術後に腫瘍内に出血を起こすこともあります。(2%程度)
  • カテーテル操作に伴う血管解離
    カテーテル操作に関連し、頭頚部の血管の内側に亀裂が入り、血管の狭窄や閉塞が起こることがあります。その修復のためにステントという金属製の筒を留置することがあります。(きわめて稀)
  • レントゲン(放射線)による障害
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害がおきることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過を診ます。(一時的脱毛は?%、重篤なものは稀)
  • 穿刺部の内出血や感染
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀)
  • 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀)
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀)
  • 深部静脈血栓症と肺塞栓
    治療終了後しばらくは安静が必要になります。予防措置はとりますが、穿刺部の圧迫止血などで、下肢の深部静脈に血栓が形成され、肺塞栓症を生じることがあります。(重篤なものはきわめて稀)
  • その他予期せぬ合併症

これらにより入院期間が延長する可能性が5%程度にあります。また、意識、運動(マヒ)、感覚(しびれ)、ことば、記憶、視力視野などの障害や後遺症を生じる可能性が2~3%、死亡する可能性も1%程度あります。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脳腫瘍術前塞栓術

筑波大学脳神経外科では、多くの脳腫瘍摘出術が行われており、その術前塞栓術も多くの経験があります。当科には脳血管内治療専門医・指導医8名が在籍しており(2020年5月現在)、これまでの多くの治療経験と最新設備を用いて最適な治療を提供します。

脳腫瘍術前塞栓術
2019年 25

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 佐藤 允之)