脳卒中の応用知識
About Stroke

D-07.もやもや病とは?

もやもや病とはどのような病気ですか?

内頚動脈が進行性に狭窄する疾患です。

もやもや病は日本人、アジア人に多く、日本人が発見した疾患です。頭の中の太い血管の内膜が何らかの原因により肥厚して、血管の内腔が細くなり、脳血流が低下していきます。

一方で、代償的に周囲の細い血管(穿通枝)が拡張したり、新たに細い血管が新生してきたりする(もやもや血管)ことで、脳血流の低下を補います。脳の太い動脈はウィリス動脈輪と呼ばれ、これが狭窄・閉塞してくる疾患のため、「ウィリス動脈輪閉塞症」とも言います。

また、拡張・新生した細い血管の増勢は、脳血管造影検査では煙のように見えるため、「もやもや病」と名付けられています。

内頚動脈は狭小化し、もやもやした側副血管が発達している

もやもや病の症状は?

若年者は脳梗塞、中年以降では脳梗塞・脳出血を起こします。

脳血流が低下してくると手足の麻痺やしびれ、言語の障害などが見られます。一時的にみられる症状を「一過性脳虚血発作」といいます。脳血流が高度に低下すると「脳梗塞」を発症し、症状が持続するため入院が必要になります。細い脆弱なもやもや血管に負担がかかると「脳出血」を起こします。

また、頭痛やてんかん発作で見つかることもあります。小児期には一過性脳虚血発作や脳梗塞、頭痛、てんかん、成人では脳出血見つかることが多いです。

もやもや病はどのくらいの頻度で、
何歳くらいの患者さんに
多く見られますか?

最近の調査では、人口10万人当たり3~10人くらいとされています。

発症年齢は2峰性を示しており、小児期に見つかる場合と、20~30代くらいをピークに見つかる場合があります。近年では40歳以上になってから初めて見つかることも多く、その場合は加齢に伴う動脈硬化による脳動脈狭窄や閉塞との鑑別が必要になります。

また、脳ドックや頭痛の精査などでたまたま見つかることもあります。10~12%程度の頻度で家族内発症が見られると言われています。

もやもや病の原因は?

遺伝子の研究が進んでいます。

原因は分かっていません。ある特定の遺伝子を持つ方に発症しやすいことが最近の研究で考えられており、日本人やアジア人に多い病気であることの原因かもしれません。

この病気の原因を解明するための研究に取り組んでいます。

まずはどうすればよいですか?

症状が全くない場合、運動の制限や生活上の制限はありません。

一時的であっても手足の麻痺やしびれ、言語の障害がある場合は、頭部MRIや脳血流検査などの画像検査を受けてください。てんかん発作を起こした方は、抗てんかん薬の服用が必要です。

外科治療を考慮する場合には、入院していただき脳血管造影を行い、最適な治療法を検討します。

どのような人に治療を勧めますか?

血流の低下が著しいひとです。

 

脳の太い動脈(ウィリス動脈輪)が狭窄・閉塞しても、新たに作られたもやもや血管や周囲の脳動脈から、十分に血液が補われていれば手術は必要ありませんが、脳血流が低下して手足の麻痺やしびれ、言語の障害などの症状が一過性にみられる場合(一過性脳虚血発作)や脳梗塞を発症してしまった場合、あるいは、脳血管に負担がかかり脳出血を起こしてしまった場合は、手術を検討します。

てんかん発作に対しては抗てんかん薬の内服治療を開始します。

どのような治療がありますか?

  • 内科治療
    高血圧、糖尿病、脂質異常症にならないように食生活に注意し、必要があれば内服治療を行います。禁煙と過度の習慣的な飲酒も控えましょう。
    てんかん(けいれん)発作を起こす方には抗てんかん薬を処方します。
    一過性脳虚血発作や脳梗塞に対して抗血小板薬を処方することがあります。
  • 科治療
    頭部の皮膚や皮下組織を栄養している浅側頭動脈(せんそくとうどうみゃく)を脳の表面を走る中大脳動脈(ちゅうだいのうどうみゃく)に吻合する直接血行再建術(バイパス術)と、脳の表面を血流豊富な動脈、硬膜、筋肉、帽状腱膜、骨膜などの組織で覆う間接血行再建術があります。

    これらの手術により脳血流を増加させて、一過性脳虚血発作や脳梗塞の発症を予防します。脆弱なもやもや血管への負担を軽減して脳出血を予防します。

手術の合併症

  • 脳梗塞
    術中に血圧が低下したり、血管の吻合が閉塞したりした場合、脳梗塞を生じることがあります。(2~3%程度)
  • 過灌流症候群、脳浮腫、脳出血
    バイパスにより血流が増加すると一時的に過灌流状態となり、てんかん、脳浮腫、脳出血を起こすことがあります。抗てんかん薬、降圧、鎮静などにより脳血流をコントロールします。脳出血は稀です。
  • 術後出血
    頭蓋内出血などにより脳が圧迫されるときは、緊急の再手術により血腫の除去と止血を要することがあります。
  • 感染症
    術後しばらくして、髄膜炎、脳炎、膿瘍形成などの感染症が起こることがあります。創部の感染にも注意します。軽症例は抗生剤などで対処できますが、重症の場合は手術にて創部洗浄、感染創の切除などの手術を要する場合もあります。
  • 創部の縫合不全
    直接的血行再建術では、皮膚の血管を剥離切断して脳血管に繋いでしまうため、皮膚の血流が悪くなり創部の縫合不全、感染が起きる可能性があります。その場合は、形成外科と相談して、再度創部の縫合手術や植皮が必要になることがあります。

もやもや病の手術で特に注意するべき合併症には、バイパス閉塞や血圧低下などに伴う脳梗塞、バイパスによる過灌流症候群、てんかん、脳浮腫があります。術後に一過性の症状を起こす可能性は、特に脳血流の低下が著しい方では高頻度に起こりえます。

しかし、多くのものは一時的で、数週間で改善します。症状が長く続いたり、後遺症となったりする可能性は5~10%程度ですが、その場合も、術後の点滴治療やリハビリテーションにより半年から1年くらいかけて軽快していく可能性があります。

広い範囲の脳梗塞や脳出血は死亡や後遺症の危険性があるので注意して周術期の治療を行います。以下は、手術のときに起こりうる合併症です。

筑波大学附属病院脳卒中科での
もやもや病の治療について

もやもや病は、幅広い年齢層に発症する病気であり、脳梗塞や脳出血など様々な症状で発症します。そのため、治療の方針も個人の病態に合わせて考える必要があります。

筑波大学では、脳卒中の内科と外科の混成チームにより、丁寧な神経診察と最新の画像検査(脳血管造影装置、MRI、脳血流スペクトなど)により脳の状態を調べて、ひとりひとりの患者さんに合った治療の方針を決めることができます。手術の場合も、小児から大人の患者さんまで、血行再建術(バイパス手術)と術後の管理に習熟した専門医、指導医が治療を担当します。

もやもや病は難病に指定されていますので、申請をすれば医療費の自己負担額を少なくできる医療費助成制度を受けられることがあります。申請については主治医にご相談ください。

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 丸島 愛樹)