脳卒中の応用知識
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D-06.頭蓋頚椎移行部動静脈瘻の塞栓術

頭蓋頚椎移行部とは何か?

  

脳は大脳・小脳・脳幹からなり、最も下部にある脳幹は頚部で脊髄に移行し、体幹部・四肢へ神経は連続しています。この脳幹と脊髄の連絡部が頭蓋頚椎移行部で、頭蓋骨底部と第1頸椎の近傍になります。

脳幹部は意識・呼吸の中枢であり、脊髄は脳と全身をつなぐ重要な神経です。頭蓋頚椎移行部の障害により、意識障害、呼吸困難、嚥下(えんげ:飲み込みのこと)障害、四肢の麻痺・感覚障害、排尿・排便の障害が生じます。

頭蓋頚椎移行部動静脈瘻とは
どんな病気か?

頭蓋頚椎移行部動静脈瘻は、脳と脊髄の移行部に異常血管ができる病気です。

通常血液は「心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓」を循環し、動脈の勢いのある血液は毛細血管で流れが遅くなり、静脈ではゆっくり流れます。動静脈瘻は毛細血管を欠く異常血管で、動脈血が直接静脈に流れ込みます。そのため静脈の圧力が高まることがあります。静脈は下水道のような役割があるので、血液の流出がうまくいかず循環障害を生じたり、脆弱(ぜいじゃく)な異常血管が破綻し、脊髄出血やくも膜下出血を起こすことがあります。

この病気は中年以降の方に多く、突然あるいは徐々に進行する意識障害、頭痛、四肢麻痺、しびれ、膀胱直腸障害で発症します。比較的稀な疾患で小さな病変であるため、診断までに時間を要してしまうことがあります。この疾患が疑われれば、入院していただき脊髄血管造影を行い、異常血管の状態を精査します。

この疾患は徐々に進行したり再出血することがあり、適切な治療が行われないと四肢と膀胱・直腸の機能が廃絶してしまうことがあります。発症から時間が経過すると、動静脈瘻を治療できても症状が回復しないことがあります。一般的に筋力は回復する可能性が高いですが、しびれや膀胱・直腸障害の回復は悪く、後遺障害となることがよくあります。

頭蓋頚椎移行部静脈瘻の治療法は?

  • 塞栓術(血管内治療)
    カテーテルで異常血管を閉塞します。脊髄前面にあるものや破裂急性期の動脈瘤合併例に適します。
  • 異常血管の外科的離断
    骨を切除して、異常血管を離断します。脊髄背面にあるものに適します。

塞栓術の方法

治療は全身麻酔下に血管造影装置のある特別な手術室で行われます。足の付け根の血管からカテーテルを血管内に挿入し病変に進め、コイルや液体塞栓物質を注入し閉塞します。治療後はカテーテルを抜去し、穿刺部を止血して、麻酔をさまして専用病棟へ帰室します。

翌日からは歩行可能となり、数日後には退院できるので、塞栓術のみであれば1週間程度の入院となります。退院後は直ちに通常の生活に戻れますが、運動は外来受診後から再開してください。

塞栓物質NBCAについて

本疾患の塞栓術にはNBCA(ヒストアクリル)を用いることがあります。しかし日本では塞栓物質としての認可がありません(外科用接着剤、として認可済み)。海外では塞栓物質として認可されており、日本でも20年以上前より使用されています。他に使用できる塞栓物質が無いため、ご本人とご家族に同意がいただければ使用します。

塞栓術の危険性

  • 正常脳血管の閉塞による脊髄梗塞・脳梗塞(2%程度)
    異常血管のみの閉塞では問題はありませんが、塞栓物質が脊髄の栄養血管に迷入すると、脊髄梗塞を起こします。またカテーテル周囲に血栓ができてそれが正常血管に迷入することもあります。またごく稀に脳血管への迷入による脳梗塞を起こすこともあります。
  • 塞栓後の広範な静脈の血栓化による症状の悪化(1%程度)
    治療前の静脈は循環障害により著しく拡張しています。塞栓術により循環障害は徐々に改善しますが、静脈の拡張はすぐには修復せず、静脈の血液の停滞はしばらく続きます。血液は停滞すると凝固(かたまる=血栓化)性質があり、塞栓術後の脊髄の静脈が広範に血栓化することがあり、抗凝固薬でそれを予防します。
  • カテーテル操作や血流の変更による出血(2%程度)
    塞栓術では、カテーテル、それを誘導するガイドワイヤーなどの治療機器を脊髄の血管に誘導します。治療機器は細く柔軟にできていますが、脊髄血管は極めて細く、また予測できない個人差や疾患による脆弱性があることがあります。また塞栓術後に血流が変わることにより、動静脈奇形から出血を起こすこともあります。
  • カテーテル操作に伴う血管解離
    カテーテル操作に関連し、頭頚部の血管の内側に亀裂が入り、血管の狭窄や閉塞が起こることがあります。その修復のためにステントという金属製の筒を留置することがあります。(きわめて稀)
  • カテーテルの抜去困難や離断による体内への遺残(きわめて稀)
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。
  • レントゲン(放射線)による障害(重篤なものは稀)
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害がおきることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過を診ます。
  • 穿刺部の内出血や感染(外科処置が必要なものは稀、軽度の皮下出血はよく起こる)
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。
  • 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残(きわめて稀)
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞(きわめて稀)
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。
  • その他予期せぬ合併症
  • これらにより入院期間が延長する可能性が5%程度にあります。また、四肢麻痺、感覚障害、膀胱直腸障害の悪化などの可能性が2~3%、死亡や脊髄機能が廃絶する可能性も1%程度あります。

    (文責:筑波大学附属病院脳卒中科 松丸 祐司)