脳卒中の応用知識
About Stroke

D-03.脊髄硬膜動静脈瘻とは?

脊髄とは何か?

  

脊髄は脳と全身をつなぐ重要な神経で、その障害により、呼吸困難、嚥下(えんげ:飲み込みのこと)障害、四肢の麻痺・感覚障害(しびれ)、排尿・排便の障害が生じます。また重篤な脊髄の障害は、完全な回復は困難で後遺症を残します。

脊髄硬膜(外)動静脈瘻とは
どんな病気か?

脊髄硬膜(外)動静脈瘻は、脊髄を包む膜(硬膜)またはその外側(硬膜外)に動脈と静脈が短絡した(直接つながる)異常血管ができる病気です。

通常血液は「心臓→動脈→毛細血管→静脈→心臓」を循環し、動脈の勢いのある血液は毛細血管で流れが遅くなり、静脈ではゆっくり流れます。動静脈瘻は毛細血管を欠く異常血管で、動脈血が直接静脈に流れ込みます。そのため静脈の圧力が高まります。静脈は下水道のような役割があるので、動静脈瘻があると圧力が高まりあふれ、脊髄の循環障害を生じます。 この病気は中年以降の方に多く、両下肢の麻痺、しびれ、排尿・排便困難で発症し、徐々に進行します。比較的稀な疾患であるため、診断までに時間を要してしまうことがあります。MRIで脊髄の信号変化と拡張した静脈を認めればほぼ診断はつきますが、異常血管の正確な場所を同定することは困難です。

この疾患が疑われれば、入院していただき脊髄血管造影を行い、異常血管の場所を同定し治療しますが、病変は小さく脊髄は上下に長く検索する範囲がきわめて広いため発見が難しいことがあります。

この疾患は徐々に進行し、適切な治療が行われないと脊髄機能が廃絶し、四肢マヒ、感覚障害、排尿・排便困難となってしまいます。発症から時間が経過すると、動静脈瘻を治療できても症状が回復しないことがあります。一般的に筋力は回復する可能性が高いですが、しびれや排尿・排便障害の回復は悪く、後遺障害となることがよくあります。

脊髄動静脈奇形

脊脊髄硬膜動静脈瘻と脊髄硬膜外動静脈瘻の治療法は?

2つの方法があります。

  • 塞栓術(血管内治療)
    カテーテルで異常血管を閉塞します。脊髄血管造影による診断に引き続き施行できるのでまず検討する治療です。しかしNBCAが流出静脈まで到達しないと根治できません。
  • 流出静脈の外科的離断
    背中の骨を切除して、異常血管を離断します。脊髄血管造影で病変が同定できれば確実な治療です。塞栓術が困難または危険性が高い場合に行います。
  • 治療の実際は、全身麻酔下に脊髄血管造影を行い、病変を確認したら、引き続き塞栓術を考慮します。塞栓術で根治できない場合、または危険性が高い場合は外科的離断術を行います。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脊髄血管疾患に対する治療について

脊髄は脳と手足をつなぐとても最も重要な神経で、その血管はとても細くて複雑です。脊髄動静脈奇形・硬膜動静脈瘻など脊髄血管疾患に対する治療には、血管造影による適格な診断と血管の構造の理解が重要です。

筑波大学では、全身麻酔による脊髄血管造影の多くの経験があります。治療は、血管内治療と外科治療がありますが、きわめて高度な知識と技術を必要とします。筑波大学は豊富な経験を活かし、最適な治療を提案します。

脊髄血管造影 塞栓術 外科治療
2018〜19年 10 7 2

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 松丸 祐司)