脳卒中の応用知識
About Stroke

D-08.もやもや病の外科治療

外科治療の適応は?

  • 一過性脳虚血発作や脳梗塞を起こしたひと
  • 脳出血を起こしたひと
  • もやもや病に関連する症状があり、脳血流が著しく低下している人

外科治療の方法は?

  • 直接血行再建術
    有利な点は、手術直後から血流が増えることです。
    手術は全身麻酔下で行われます。頭部をピンで動かないように固定します。手術は部分剃毛で行いますので、皮膚切開はほぼ頭髪の中に隠れて目立ちません。
    頭部の皮膚や皮下組織を栄養している浅側頭動脈(せんそくとうどうみゃく)を手術用顕微鏡で確認しながら、剥離・分離して確保します。頭蓋骨はドリルで切って外しますは。この骨は手術終了時に戻します。脳の表面の硬膜を切って、脳表に至り、吻合する脳の表面を走る中大脳動脈(ちゅうだいのうどうみゃく)を選択し、露出させて、吻合直前に一時的に遮断します。皮膚切開の時に確保した浅側頭動脈を、脳動脈に非常に細い針と糸を用いて縫い合わせます。吻合が完成したら、遮断していた脳動脈を再開通させます。バイパスの血流を、蛍光薬を用いた術中血管造影やドップラー血流計で確認します。
  • 間接血行再建術
    有利な点は、広い範囲に新しい血管の再生を促して、血流を増やすことができることです。
    血管が新生するまで、数か月から1年ほどかかります。 血管新生の能力が高い小児の患者さんでは、間接結構再建術のみを行うことがあります。
    先述の1)~5)の直接血行再建術を終えた後に、脳の表面を血流の豊富な動脈、硬膜、筋肉、帽状腱膜、骨膜などの組織で覆います。小児患者さんでは直接血行再建術を行わず、間接血行再建術のみを行うこともあります。頭蓋骨を戻してチタンのプレートで固定し、閉創します。脳血流が不足しているところでは、血流が豊富な組織から脳の表面へ新たに血管ができて、血液が補われます。

外科治療の危険性は?

  • 脳梗塞、一過性脳虚血発作
    手術時の血圧低下や、吻合時の一時的な脳動脈の遮断により脳梗塞を起こす可能性があります。術後、吻合血管が血栓などにより閉塞して脳梗塞を起こすことがあります。その場合、術後に手足の麻痺やしびれ、言語障害などの症状を起こすことがあります。(2~3%程度)
  • 過灌流症候群、脳出血、脳浮腫
    脳血流が低下している部に、血行再建により血流が増加すると、術後一時的に過灌流状態となり、脳出血、脳浮腫を起こすことがあります。それにより、けいれん(てんかん)、手足の麻痺、言語障害が出現することがあります。脳血流検査で過灌流が認められるときは、降圧、鎮静などにより脳血流をコントロールします。稀に、全身麻酔をかけて鎮静する要するあることがあります。(一時的な症状は出現しても、重篤なものは稀)
  • けいれん(てんかん)
    術後1週間以内の急性期、あるいは遅発性にけいれんを来すことがあります。これらに対しては、抗てんかん薬を使用して、けいれんをコントロールします。けいれんを繰り返すときは人工呼吸器・全身麻酔薬を含む全身管理を要する場合もあります。(5%程度、重篤なものは稀)
  • 術後出血
    頭蓋内出血などにより脳が圧迫されるときは、緊急の再手術により血腫の除去と止血を要することがあります。(稀)
  • 感染症
    術後しばらくして、髄膜炎、脳炎、膿瘍形成などの感染症が起こることがあります。抗生剤の点滴で予防します。創部の感染にも注意する必要があります。軽症例は抗生剤などで対処できますが、重症の場合は手術にて創部洗浄、感染創の切除などの手術を要する場合もあります。
  • 創部の縫合不全
    直接的血行再建術では、皮膚の血管を剥離切断して、脳血管に繋いでしまうため、皮膚の血流が悪くなり、創部の縫合不全、感染が起きる可能性があります。その場合は、形成外科と相談して、再度創部の縫合手術や植皮が必要になることがあります。
  • その他の全身合併症
    麻酔や手術の影響で、心・肺(肺塞栓を含む)・肝・腎などに合併症をきたす可能性があります。麻酔薬のアレルギーや、全身麻酔・気管内挿管に伴う合併症のリスクがあります。詳細は麻酔科担当医師より説明があります。

これらにより入院期間が延長する可能性が10%程度にあります。出血や脳梗塞、てんかんによる意識障害、運動障害、言葉や記憶の障害、視力視野障害などの後遺症を生じる可能性は3%程度、死亡する可能性は1%未満です。

筑波大学附属病院脳卒中科での
もやもや病の治療について

もやもや病は、幅広い年齢層に発症する病気であり、脳梗塞や脳出血など様々な症状で発症します。そのため、治療の方針も個人の病態に合わせて考える必要があります。

筑波大学では、脳卒中の内科と外科の混成チームにより、丁寧な神経診察と最新の画像検査(脳血管造影装置、MRI、脳血流スペクトなど)により脳の状態を調べて、ひとりひとりの患者さんに合った治療の方針を決めることができます。手術の場合も、小児から大人の患者さんまで、血行再建術(バイパス手術)と術後の管理に習熟した専門医、指導医が治療を担当します。

もやもや病は難病に指定されていますので、申請をすれば医療費の自己負担額を少なくできる医療費助成制度を受けられることがあります。申請については主治医にご相談ください。

外科治療
2019年 5

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 丸島 愛樹)