脳卒中の応用知識
About Stroke

D-05.脳脊髄硬膜動静脈瘻に対する外科手術(離断術)

外科手術(離断術)の方法

  

「外科手術(離断術)」では、病変がある脊髄の背面の皮膚を切開し、筋肉をよけて、骨(脊椎の後ろの部分や後頭骨の一部)を削り、外します。脊椎と靭帯の深部にある脳脊髄を覆っている硬膜を露出させます。硬膜を切開して、硬膜内に動静脈を吻合する瘻孔(シャントポイント)を確認します。シャントポイントにクリップかけて遮断し、術中血管撮影を造影剤や蛍光色素薬を用いて行い、硬膜動静脈瘻が消失しているか確認します。クリップで遮断したところがシャントポイントであることが確認できたら、クリップをそのまま留置してシャントを遮断するか、もしくは、凝固して離断します。硬膜縫合、骨形成を行って閉創します。

外科手術(離断術)
図1:外科手術(離断術)

外科手術(離断術)の危険性

  • 脳脊髄脊髄梗塞
    シャントポイントを離断する際に、正常の脳脊髄動静脈を遮断すると脊髄梗塞が起こる危険性があります。
    脳脊髄梗塞が起こるとその部位に応じた様々な神経症状を来す可能性があります。その神経症状は、運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、嚥下障害などで、軽い場合が多いとされていますが、重篤な場合、半身不随、寝たきり状態や植物状態を引き起こしたり、生命の危険を来す可能性があります。
  • 脳脊髄神経麻痺
    硬膜動静脈瘻を栄養する血管は、硬膜動静脈瘻と同時に脳脊髄脊髄神経も栄養している事があります。従って離断術を施行した場合、視力低下、失明、眼球運動障害、顔面・頭皮の知覚障害、顔面神経麻痺、嚥下障害などの脳脊髄脊髄神経障害による症状を呈する場合があります。一過性の場合もありますが、永久的な後遺症となる事もあります。
  • 脳脊髄硬膜動静脈瘻再出血・浮腫
    硬膜動静脈瘻が閉塞された時に、動静脈の血流が変化することにより硬膜動静脈瘻が破綻して再出血を起こす事があります。
    多量の出血では脳脊髄を圧迫し、意識障害、麻痺などの症状を呈することがあります。その際には緊急で血腫除去手術を要することがあります。
  • 感染
    創部の感染、脳脊髄液の感染では髄膜炎を起こすことがあります。抗生剤の投与で予防し、発症時は治療します。
  • 髄液漏、低髄圧症候群
    脳脊髄液が硬膜縫合部から漏出し、皮下に貯留することがあります。穿刺吸引して、圧迫して治りますが、再発するときは漏出部の再縫合のために再手術を要することがあります。
  • 再手術、再治療、再発
    一度の手術でシャントポイントを離断しきれないことや、経過中に再発すること事があります。その際には再度MRIや脳脊髄血管撮影で病態を評価して、再治療を検討することがあります。
  • 脊椎の不安定性
    脊髄の手術では、脊椎周囲の筋肉の離断、剥離や骨切除により術後に脊椎の安定性が低下することがあります。その場合は、脊髄の圧迫症状(麻痺、しびれ)などが後日出現することがあります。不安定性予防に術後に頸椎カラーをすることがあります。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脊髄血管疾患に対する治療について

脊髄は脳と手足をつなぐとても最も重要な神経で、その血管はとても細くて複雑です。脊髄動静脈奇形・硬膜動静脈瘻など脊髄血管疾患に対する治療には、血管造影による適格な診断と血管の構造の理解が重要です。

筑波大学では、全身麻酔による脊髄血管造影の多くの経験があります。治療は、血管内治療と外科治療がありますが、きわめて高度な知識と技術を必要とします。筑波大学は豊富な経験を活かし、最適な治療を提案します。

脊髄血管造影 塞栓術 外科治療
2018〜19年 10 7 2

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 丸島 愛樹)