脳卒中の応用知識
About Stroke

C-07.未破裂脳動脈瘤に対する血流改変ステントによる治療

血流改変ステントとは何か

血流改変ステント(フローダイバーター)とはメッシュ状の筒で、脳動脈瘤の治療のために開発された最新の機器です。脳動脈瘤の入り口を含む血管に留置すると、瘤内の血流が停滞し、後に血栓化(かたまること)します。そうすると動脈瘤の入り口に徐々に新しい膜ができて、動脈瘤が治癒します。

この治療の特徴は、通常のコイル治療では根治することができなかった、入り口が広い動脈瘤(ワイドネック型)や大きな動脈瘤も再発無く根治ができることです。内頚動脈の大型・巨大動脈瘤には最適です。

また動脈瘤内にカテーテルやコイルを入れないため、重篤な合併症である術中破裂がほとんだにことです。しかし破裂直後のものや分岐部の動脈瘤には適応になりません。また動脈瘤が完全に閉塞するには数ヶ月から1年程度かかります。

血流改変ステント(フローダイバーター)
図1:血流改変ステント(フローダイバーター)
血流改変ステント(フローダイバーター)
図2:血流改変ステント(フローダイバーター)
血流改変ステントによる症例
血流改変ステントによる症例
血流改変ステントによる症例
血流改変ステントによる症例
血流改変ステントによる症例
血流改変ステントによる症例

血流改変ステントが適する脳動脈瘤は?

  • 内頚動脈、椎骨動脈、脳底動脈の分岐部以外にあるもの
  • 5mm以上のワイドネック型動脈瘤(特に大型、巨大)
  • 破裂急性期ではないもの

血流改変ステント留置術の方法

治療は全身麻酔下に血管造影装置のある特別な手術室で行います。

足の付け根からカテーテルを血管内に挿入し、レントゲンと造影剤を使って透視しながら動脈瘤のある血管に進めます。そしてそのカテーテルから血流改変ステントを血管に留置します。コイルを併用することもあります。治療後はカテーテルを抜去し、穿刺部を止血して、麻酔をさまして専用病棟へ帰室します。

翌日からは歩行可能となり、数日後には退院できるので、1週間程度の入院となります。退院後は直ちに通常の生活に戻れますが、運動は外来受診後から再開してください。治療は通常2時間から4時間程度です。

治療前からの抗血小板薬の服用と
塞栓術の方法未承認薬品プラスグレル
使用の可能性

治療の2週間前から治療中・治療後の脳梗塞予防のため血液を固まりにくくする薬を2剤と胃薬を服用していただきます。

しかしその効果には個体差があり、治療直前の測定で効果が不十分な場合、プラスグレルという効果の強いものに変更させていただくことがあります。プラスグレルは残念ながら日本では心血管への適応はありますが、脳血管への薬事承認がありません。同意いただければ我々の判断で使用させていただきます。

血流改変ステント留置術の危険性

  • 治療中の動脈瘤破裂や血管損傷による出血
    脳血管内治療では、カテーテル、それを誘導するガイドワイヤーなどの治療機器を脳の血管に誘導します。
    治療機器は脳の血管に安全に誘導できるように細く柔軟にできていますが、血管には予測できない個人差や疾患による脆弱性があることがあります。そのため治療中・治療後に血管損傷による出血が起こることがあります。また脳動脈瘤の壁は脆弱で、増大・破裂しくも膜下出血を発症します。
    治療中は動脈瘤内やその近傍に治療機器を慎重に進めますが、稀に治療中に破裂を引き起こすことがあります。その時はカテーテルや治療機器を使って止血します。止血が困難な時は、血管を閉塞したり緊急開頭治療を行うことがあります。このような場合は、大出血となってしまうため、重篤な合併症となってしまうことがあります。(1%程度)
  • 治療後の動脈瘤破裂
    脳血管内治療では、動脈瘤への血流が完全になくなるには数日から数ヶ月かかります。そのため治療直後には動脈瘤への血流が残存するため、稀に治療後に破裂することがあります。
  • 脳血管の閉塞による脳梗塞
    脳血管内治療では治療機器の周囲に血栓(血液のかたまり)ができることがあり、その予防のために治療前と治療中に複数の薬剤を使用します。しかし血流が停滞すると血栓により血管が閉塞し、脳梗塞を起こすことがあります。(2%程度)
  • レントゲン(放射線)による障害
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害がおきることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過を診ます。(重篤なものは極めて稀)
  • 穿刺部の内出血や感染
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀)
  • 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀)
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀)
  • その他予期せぬ合併症

これらにより入院期間が延長する可能性が5%程度にあります。また、意識障害、運動障害、ことばや記憶の障害、視力視野障害などの後遺症を生じる可能性が3から4%、死亡する可能性も2%程度あります。

脳動脈瘤の不完全閉塞の可能性

この治療法は通常のコイル塞栓術と比較し、術中破裂という重篤な合併症が少なく、大型・巨大動脈瘤にも有効である画期的な治療法ですが、稀に1年以上経過しても動脈瘤が閉塞しない場合があります。その時はステントの再留置や母血管閉塞などの再治療を検討します。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脳動脈瘤に対する血管内治療について

血流改変ステントによる脳動脈瘤治療は、脳動脈瘤の最新治療です。

この治療を施行できる施設、医師は限定されており、当院は治療施設であり、松丸祐司と細尾久幸が治療医として認められています。当科の科長である松丸はこの機器の日本への導入時よりかかわっており、指導官として全国の施設・医師の導入とトレーニングを担当しています。

血管内治療 開頭治療
2019年 未破裂脳動脈瘤 25 12
破裂脳動脈瘤 16 8

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 松丸 祐司)