脳卒中の応用知識
About Stroke

C-02.破裂脳動脈瘤に対する塞栓術

塞栓術とはどのような治療か

再破裂を防止するためのカテーテル治療です。

コイルとは、脳動脈瘤治療のために開発された、プラチナ製の柔軟なワイヤー状の機器で、いろいろな形、大きさ、長さ、太さのものがあります。

この治療の特徴は、開頭や脳・神経への直接の操作が不要であるため、それらの障害の可能性が低く、入院期間が短く日常生活への復帰が早くできることです。

問題点として、入り口の広いもの、不規則な形のもの、大型・巨大動脈瘤は根治(完全に治癒させること)が困難で、わずかに再発や再治療があることです。

塞栓術が適する破裂脳動脈瘤は?

 
  • 動脈瘤の入り口が狭いもの
  • 脳深部にあるもの
  • 脳腫脹や脳血流低下があるもの
  • 開頭治療が適さないもの

塞栓術の治療方法は?

治療は全身麻酔下に血管造影装置のある特別な手術室で行います。

塞栓術前に血性の髄液を除去するために、腰椎または頭部からチューブを挿入し、持続的に排出することがあります。足の付け根からカテーテルを血管内に挿入し、レントゲンと造影剤を使って透視しながら動脈瘤内に進めます。そして柔軟なプラチナ製のコイルを動脈瘤内に充填します。コイルが動脈瘤から血管に逸脱する場合には、風船のついたカテーテルで一時的に支えることがあります。

また日本では破裂急性期での使用は未承認ですが、やむを得ずステントを併用することもあります。

治療後はカテーテルを抜去し、穿刺部を止血して、麻酔を継続して、厳重な血圧管理と全身管理を行うための専用病棟へ帰室します。治療は通常2~4時間程度です。

塞栓術の治療方法
図1:塞栓術の治療方法

塞栓術治療の危険性

血管内治療には合併症の危険性があります。

  • 治療中の動脈瘤破裂や血管損傷による脳出血
    破裂した脳動脈はきわめて脆弱(ぜいじゃく)で、治療中の操作で再破裂することがあります。治療機器は脳の血管に安全に誘導できるように細く柔軟にできていますが、血管には予測できない個人差や疾患による脆弱性があり、損傷により出血することがあります。その時はカテーテルや治療機器を使って止血します。止血が困難な時は、血管ごと閉塞したり緊急開頭治療を行うことがあります。(5%程度)
  • 治療後の動脈瘤再破裂
    塞栓術では、動脈瘤への血流が完全になくなるには数日から数ヶ月かかります。そのため治療直後には動脈瘤への血流がわずかに残存するため、治療後に再破裂することがあります。(1%程度)
  • 脳梗塞
    塞栓術では治療機器の周囲に血栓(血液のかたまり)ができることがあります。またコイルが血管内に逸脱したり、血流が停滞すると血栓により血管が閉塞し、脳梗塞を起こすことがあります。(5%程度)
  • カテーテル操作に伴う血管解離
    カテーテル操作に関連し、頭頚部の血管の内側に亀裂が入り、血管の狭窄や閉塞が起こることがあります。その修復のためにステントという金属製の筒を留置することがあります。(稀)
  • レントゲン(放射線)による障害
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害がおきることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過を診ます。(重篤なものは極めて稀)
  • 穿刺部の内出血や感染
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、希に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀)
  • 薬剤・造影剤・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(重篤なものはきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀)
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステリン結晶が腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀)
  • 深部静脈血栓症と肺塞栓
    治療終了後しばらくは安静が必要になります。予防措置はとりますが、穿刺部の圧迫止血などで、下肢の深部静脈に血栓が形成され、肺塞栓症を生じることがあります。(重篤なものはきわめて稀)
  • その他予期せぬ合併症
    くも膜下出血の予後は、出血の重症度によります。治療前または治療後に再破裂すると、ほとんどの場合死亡します。また治療中に動脈瘤破裂、脳出血、脳梗塞が生じると、意識障害、運動障害、ことばや記憶の障害、視力視野障害などの後遺症を生じる可能性が10%程度、死亡する可能性も5%程度あります。

脳動脈瘤の再発の可能性

コイル塞栓術は開頭治療よりも合併症が少ない治療法ですが、治療直後にはまだ動脈瘤内に隙間があり、血流がわずかに残ります。

その血液が固まり動脈瘤の入り口がきれいに閉塞すれば根治しますが、コイルが変形すると動脈瘤内の血液の流入が再開します。

この程度が大きいと動脈瘤の破裂や増大の予防が不完全となります。そのような場合には再治療が必要となり、5%程度の可能性があります。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脳動脈瘤治療

脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血は、きわめて重篤な疾患です。当科では未破裂脳動脈瘤の治療適応を慎重に検討します。

また破裂脳動脈瘤では、早期に再破裂予防のための治療を行います。

脳動脈瘤の部位、形態、大きさ、全身状態や合併疾患を考慮し、適切なものを提案します。

当科には、脳神経外科専門医6名、脳卒中の外科技術認定医・指導医2名、脳血管内治療専門医・指導医8名が在籍しており(2020年5月現在)、これまでの多くの治療経験と最新設備を用いて最適な治療を提供します。

血管内治療 開頭治療
2019年 未破裂脳動脈瘤 25 12
破裂脳動脈瘤 16 8

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 佐藤 允之)