脳卒中の応用知識
About Stroke

C-05.未破裂脳動脈瘤に対する塞栓術

コイル塞栓術の特徴

コイルとは、脳動脈瘤治療のために開発された、プラチナ製の柔軟なワイヤー状の機器で、いろいろな形、大きさ、長さ、太さのものがあります。

この治療の特徴は、開頭や脳・神経への直接の操作が不要であるため、それらの障害の可能性が低く、入院期間が短く日常生活への復帰が早くできることです。

問題点として、入り口の広いもの、不規則な形のもの、大型・巨大動脈瘤は根治(完全に治癒させること)が困難で、再発や再治療があることです。これらの欠点を解消するためにステントとよばれる金属製の網状のパイプを併用することもあります。

コイル塞栓術 コイル
コイル
コイル塞栓術 ステント
ステント

塞栓術の方法

治療は全身麻酔下に血管造影装置のある特別な手術室で行います。

足の付け根からカテーテルを血管内に挿入し、レントゲンと造影剤を使って透視しながら動脈瘤内に進めます。そして柔軟なプラチナ製のコイルを動脈瘤内に充填します。コイルが動脈瘤から血管に逸脱する場合には、風船のついたカテーテルで一時的に支えたり、ステントを併用することもあります。治療後はカテーテルを抜去し、穿刺部を止血して、麻酔をさまして専用病棟へ帰室します。

翌日からは歩行可能となり数日後には退院できるので、1週間程度の入院となります。退院後は直ちに通常の生活に戻れますが、運動は外来受診後から再開してください。治療は通常3時間から4時間程度です。

治療前の動脈瘤
治療前の動脈瘤
治療後の動脈瘤
治療後の動脈瘤
塞栓術の方法
塞栓術の症例

治療前からの抗血小板薬の服用と未承認薬プラスグレル使用の可能性

治療の2週間前から治療中と治療後の脳梗塞予防のために、血液を固まりにくくする薬を2剤服用していただきます。

しかしその効果には個体差があり、治療直前の測定で効果が不十分な場合、プラスグレルという効果の強いものに変更させていただくことがあります。

プラスグレルは残念ながら日本では心臓血管への適応はありますが、脳血管への薬事承認がありません。同意いただければ我々の判断で使用させていただきます。

塞栓術治療の危険性

外科治療には合併症の危険性があります。

  • 治療中の動脈瘤破裂や血管損傷による出血
    脳血管内治療では、カテーテル、それを誘導するガイドワイヤーなどの治療機器を脳の血管に誘導します。
    治療機器は脳の血管に安全に誘導できるように細く柔軟にできていますが、血管には予測できない個人差や疾患による脆弱性があることがあります。そのため治療中・治療後に血管損傷による出血が起こることがあります。
    また脳動脈瘤の壁は脆弱で、増大・破裂しくも膜下出血を発症します。治療中は動脈瘤内やその近傍に治療機器を慎重に進めますが、稀に治療中に破裂を引き起こすことがあります。その時はカテーテルや治療機器を使って止血します。止血が困難な時は、血管を閉塞したり緊急開頭治療を行うことがあります。このような場合は、大出血となってしまうため、重篤な合併症となってしまうことがあります。(1%程度)
  • 治療後の動脈瘤破裂
    脳血管内治療では、動脈瘤への血流が完全になくなるには数日から数ヶ月かかります。そのため治療直後には動脈瘤への血流が残存するため、稀に治療後に破裂することがあります。
  • 脳血管の閉塞による脳梗塞
    脳血管内治療では治療機器の周囲に血栓(血液のかたまり)ができることがあり、その予防のために治療前と治療中に複数の薬剤を使用します。しかしコイルが血管内に逸脱したり、血流が停滞すると血栓により血管が閉塞し、脳梗塞を起こすことがあります。(2%程度)
  • カテーテル操作に伴う血管解離
    カテーテル操作に関連し、頭頚部の血管の内側に亀裂が入り、血管の狭窄や閉塞が起こることがあります。その修復のためにステントという金属製の筒を留置することがあります。(きわめて稀)
  • レントゲン(放射線)による障害
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害がおきることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過を診ます。(重篤なものは極めて稀)
  • 穿刺部の内出血や感染
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀)
  • 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀)
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀)
  • その他予期せぬ合併症
  • これらにより入院期間が延長する可能性が5%程度にあります。出血や脳梗塞による意識障害、運動障害、ことばや記憶の障害、視力視野障害などの後遺症を生じる可能性が2から3%、死亡する可能性も1%程度あります。

脳動脈瘤の再発の可能性

コイル塞栓術は開頭治療よりも合併症が少ない治療法ですが、治療直後にはまだ動脈瘤内に隙間があり、血流がわずかに残ります。その血液が固まり動脈瘤の入り口がきれいに閉塞すれば根治しますが、コイルが変形すると動脈瘤内の血液の流入が再開します。

この程度が大きいと動脈瘤の破裂や増大の予防が不完全となります。そのような場合には再治療が必要となり、5%程度の可能性があります。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脳動脈瘤に対するコイル塞栓術について

当科では脳動脈瘤に対し血管内治療を積極的に取り入れています。

また当科には日本脳神経血管内治療学会の認定する専門医が4名、指導医が4名と県内で最も多く在籍し(2020年5月現在)、同学会の研修施設に認定されています。これまでの多くの治療経験と最新設備を用いて最適な治療を提供します。

血管内治療 開頭治療
2019年 未破裂脳動脈瘤 25 12
破裂脳動脈瘤 16 8

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 松丸 祐司)