脳卒中の応用知識
About Stroke

A-06.頭蓋内血管形成術

頭蓋内血管形成術とは
どのような治療ですか?

カテーテルで狭窄した血管を拡張します。

脳血管の狭窄により脳血流が著しく低下し、内科治療のみでは脳梗塞の拡大や再発を防げない場合、カテーテルで血管を拡張し脳血流を増やします。この治療の目的は脳梗塞の予防であり、現在の症状を改善させるものではありません。

図1:カテーテル治療
図1:カテーテル治療
閉塞可能な症例
図2:閉塞可能な症例

適応

  • 脳主幹動脈(内頚動脈、中大脳動脈、脳底動脈、椎骨動脈など)に高度な狭窄があり、内科治療のみでは脳梗塞の再発や拡大を防止できない人
  • 基礎疾患としては動脈硬化がほとんどであるが、脳血管解離によるもの、くも膜下出血後やその他の脳血管攣縮(血管が収縮すること)によるものも検討される

治療方法

治療に先立って、血栓の予防のために2種類の抗血小板薬を服用していただきます。

足のつけねからカテーテルと呼ばれる直径3mm程度の管を狭搾血管の直前まで進めます。そのカテーテルを通して、血管形成術用の先端に風船のついているバルーンカテーテルを狭窄部に留置し、拡張します。
拡張が不十分な場合には金属製の筒であるステントの留置を追加します。

十分な拡張が確認されれば、カテーテルを抜去して、足の付け根の所の止血をして終了します。
治療後は集中治療病棟で、厳重な全身管理を行います。

通常治療後より飲水は可能で夕食も食べられますが、ベッド上での安静が必要となります。経過が良ければ翌日から歩行可能で、通常1週間以内に退院できます。

頭蓋内血管形成術の危険性

脳血管内治療には合併症の危険があります。

  • 脳梗塞
    治療中や治療後に、血栓により狭窄血管が急性閉塞し、脳梗塞を起こすことがあります。また血栓が脳に流れて脳梗塞を起こすことがあります。(2%程度)
  • 脳出血
    拡張中に血管が破裂し、脳出血やくも膜下出血を起こすことがあります。また治療前に著しい脳血流の低下がある人は、手術後に過灌流(脳血流の過剰な増加)により脳出血を起こすことがあります。(2%程度)
  • カテーテル操作に伴う血管解離
    カテーテル操作に関連し、頭頚部の血管の内側に亀裂が入り、血管の狭窄や閉塞が起こることがあります。その修復のためにステントという金属製の筒を留置することがあります。(きわめて稀)
  • けいれん発作
    手術後に過灌流(脳血流の過剰な増加)により発作を起こすことがあります。
  • レントゲン(放射線)による障害
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害が起きることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過をみます。
  • 穿刺部の内出血や感染
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀)
  • 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀)
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀)
  • その他予期せぬ合併症

これらにより入院期間が延長する可能性が5%程度にあります。特に脳梗塞や脳出血を合併すると、意識、運動(マヒ)、感覚(しびれ)、ことば、記憶、視力視野などの障害や後遺症を生じる可能性が2~3%、死亡する可能性も1%程度あります。

再狭窄について

血管形成術は、狭窄の原因である動脈硬化症やその他の原因を根治するわけではないので、再度血管が狭窄することがあります。また拡張した血管が留置したステントに対し過剰に反応し、血管の内膜が肥厚することあります。高度な再狭窄では再治療が必要です。

筑波大学附属病院脳卒中科での
脳血管狭窄・閉塞に対する治療

脳血管狭窄や閉塞は日本人を含むアジア人に多く、脳梗塞の原因として重要です。生活習慣の改善や内科治療が基本ですが、それにより再発や進展を食い止められない場合、血行再建治療(パイパス術、血管形成術)を考慮します。

海外での研究では、バイパス術や脳血管に対するステント治療の効果は否定的な結果が報告されています。これらの研究は、対象となった症例や治療の技術が問題として指摘されています。

当科では、血行再建治療の適応は厳密に検討し、高度な技術をもった脳神経外科専門医、脳血管内治療専門医が治療にあたります。

バイパス術 血管形成術
2019年 13 8

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 佐藤 允之)