脳卒中の応用知識
About Stroke

A-03.頚動脈内膜剥離術

頚動脈内膜剥離術は
どのような治療ですか?

プラークを外科的に摘出する手術です。

頸動脈内膜剥離術は狭窄及び塞栓形成の原因である動脈硬化病変(プラーク)を外科的に切除する治療法です。利点は動脈硬化病変を確実に摘出することができますので、ステント治療に適していないような不安定プラークの方には特に有効です。欠点は全身麻酔が必要であることと、わずかに傷が残ることです。

頸動脈内膜剥離術
図1:頸動脈内膜剥離術

どのような人に治療が必要ですか?

内科治療のみでは脳梗塞を予防できない人です。

  • 脳梗塞・一過性脳虚血発作を起こした
  • 高度な狭窄
  • 無症状だがMRIで脳梗塞がある
  • 狭窄が進行する
  • 超音波検査やMRIで不安定なプラークが確認された
  • 脳血流が低下している

治療方法

全身麻酔下に頸部の皮膚を約10cm程度切開します。皮下の組織を開き頚動脈を露出して、いったん頚動脈の血流を完全に遮断します。その後、血管を切開して脳への血流を維持するためのチューブを挿入します。そしてプラークを切除し、血管を縫合します。止血を確認し閉創し、皮膚はテープにて固定します。手術時間は約3時間程度、入院は約10日程度です。

内膜はくり術の危険性

外科治療には合併症の危険性があります。

  • 脳梗塞
    術中や術後に治療した血管の閉塞や、血栓ができて脳に流れ脳梗塞を起こすことがあります。(3~5%)
  • 脳出血
    治療前に著しい脳血流の低下がある人は、手術後に過灌流(脳血流の過剰な増加)により脳出血を起こすことがあります。(1%未満)
  • 創部からの出血
    少量の出血は問題ありませんが、切開した血管から出血すると大出血になります。(きわめて稀)
  • けいれん
    手術後に過灌流(脳血流の過剰な増加)により発作を起こすことがあります。
  • 嗄声(させい)
    反回神経の障害で、声がかすれたり、高音がでにくくなることがあります(ほとんどは一過性)。
  • 舌のマヒ、嚥下障害
    舌の動きが悪くなったり、嚥下機能の低下がみられる場合があります。多くの場合は一過性ですが、経口摂取のリハビリが必要になることがあります。
  • 創部の感染・違和感やしびれ
    術後3ヶ月程度で感覚障害は改善します。稀に耳介後部の感覚障害が残ることがありますが、創部の傷も3ヶ月程度でかなり目立たなくなります。
  • 薬剤に関連するもの
    薬剤によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下を起こすことがあります。
  • 合併する動脈硬化症に関連するもの
    手術や全身麻酔により狭心症や心筋梗塞が誘発されることがあります。
  • その他予期せぬ合併症

これらにより入院期間が延長する可能性が2~3%程度にあります。また、意識障害、運動(マヒ)、感覚(しびれ)、ことば、嚥下、嗄声、記憶、視力視野などの障害や後遺症を生じる可能性が1~2%、死亡する可能性は1%未満です。

再狭窄について

内膜はくり術は、頚動脈狭窄の原因である動脈硬化症を根治するわけではないので、再度血管が狭窄することがあります。また手術後血管が過剰に反応し、血管の内膜が肥厚することあります。高度は再狭窄では追加治療が必要です。

筑波大学附属病院脳卒中科での
頚動脈狭窄症治療

頚動脈狭窄症の方は心臓の冠動脈疾患はじめ多くの併発疾患があり、他科との連携がとても重要です。

筑波大学附属病院は、特定機能病院としてすべての診療科がそろい、高度な医療を提供しています。頚動脈狭窄症の基本は内科治療ですが、狭窄が高度になると外科治療や血管内治療が必要になります。

当科では、内科医、外科医、血管内治療医すべてが診療科に在籍するので、ひとりひとりの患者様に最適な治療を滞りなく提供することができます。また血行再建治療には内幕剥離術とステント治療がありますが、どちらかに偏ることなく最適な方をお勧めし、患者様と相談しながら治療法を決定します。

頚動脈
内膜はくり術
頚動脈
ステント治療
2019年 7 13

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 伊藤 嘉朗)