脳卒中の応用知識
About Stroke

A-01.脳梗塞・一過性脳虚血発作とは?

脳梗塞はどんな病気?

脳の血管が閉塞し脳が壊死する重篤な疾患です。
脳卒中は、日本人の死因の第3~4位に位置する重大な病気です。「脳梗塞」、「脳出血」、「くも膜下出血」の3つに分けられ、3/4を「脳梗塞」が占めています。脳梗塞とは、脳の血管が詰まってその先の脳組織に血液が行き届かなくなり、脳組織が機能しなくなる(=「死んで」しまう)病気の総称です。

脳梗塞の症状は?

突然の顔・手足の麻痺・ことばの障害が多い症状です。

以下の症状が突然出現する、あるいは時間あるいは日の単位で徐々に悪化します。

  • 麻痺
    麻痺とは、力が入らなくなることを言い、典型的な症状はどちらか片方の手足の力が同時に入りづらくなるというものです(片麻痺)。
    また、麻痺が生じた部位の感覚が鈍くなったり、しびれをともなったりすることもあります(感覚障害)。両腕を水平に挙げて一方をキープできない場合、軽い麻痺の症状が疑われます。
    顔面にも、麻痺がでることがあります。例えば、顔面の下半分が動かしづらくなり、「食事の際に片方の口からこぼれる」「うまく笑顔がつくれない」といった症状が出現する場合があります。
  • 言語の障害(構音障害、失語)
    「ろれつが回らない」(=構音障害)、「言葉がうまくでてこない」「言葉の意味が理解できない」(=失語)などの症状がみられる場合もあります。
  • 視力 / 視野の障害
    片方の目が見えない、物が二重に見える(複視)、視野が半分欠ける(半盲)などの症状も生じることもあります。
  • 失調
    「力は入るのにバランスがとれずに立てない」「歩けない」「めまいがする」などの症状も脳卒中の症状として出現することがあります。こうした症状を「失調」といいます。めまいとともに吐き気・嘔吐が出現することもあります。
  • 意識障害
    重症脳梗塞の場合、意識状態が急激に悪化する(意識障害)ことが多いのですが、軽症の場合でも「なんとなく、ぼーっとしている」など軽度の意識障害が出現し、日時や場所の感覚が不正確になることがあります。

一過性脳虚血発作とは?

脳梗塞の前兆です。

先述して症状が数分から1時間程度で完全に回復することがあります。
それは「一過性脳虚血発作」の可能性があります。

これは「脳卒中が自然に治った」ことを意味するものではありません。一過性脳虚血発作とは、脳梗塞の前兆となる病態で、最初の2週間で脳梗塞を発症する危険性は10%を超えるといわれています。脳梗塞と同様にすぐに受診する必要があります。

原因は主に3つのタイプがあります

  1. 1. 心原性脳塞栓症

    心房細動などの不整脈、あるいはなんらかの心臓病により心臓の中に血液の澱みが生じ、そこに血栓ができて、はがれて血液の流れにのって脳の血管に到達し詰まってしまうことで生じます。急速に症状が進み、大きな梗塞を形成して重症となることが多い病型です。

  2. 2. アテローム血栓性脳梗塞

    比較的太い血管や、脳につながるおおもとである「頚動脈(けいどうみゃく)」とよばれる首の血管などの血管壁に脂肪が沈着して、その厚みを増すことで血液の流れる血管の内腔が狭まって(動脈硬化)引き起こされます。

    血管の内腔が狭くなる(狭窄(きょうさく))ことで、脳に到達する血液の量が不足する、狭い所で血液の塊(血栓)ができてその場で詰まる、または血栓が流れて、より下流の脳の動脈が詰まる、などにより脳梗塞が引き起こされます。

    脳梗塞の大きさはさまざまですが、中等症から重症の症状を呈することが多い病型です。なお、動脈硬化が原因となる病気は脳梗塞に加え、心筋梗塞・狭心症(心臓の筋肉に栄養を送っている冠動脈という血管が狭くなる、または詰まって引き起こされます)が有名です。これらを合わせて「動脈硬化性疾患」といいます。一過性脳虚血発作を起こすことがあります。

  3. 3. ラクナ梗塞

    「穿通枝(せんつうし)」という細い血管が詰まることによって引き起こされる小さい脳梗塞をいい、比較的軽症が多いという特徴があります。

    図1:ラクナ梗塞

発症早期の治療は?

まずは再開通治療を検討します。

  • 頭部CTや頭部MRIで脳梗塞の部位、範囲および脳血管の状態を診断します。
    発症後数時間以内の超急性期に来院し、適応がある場合にはアルテプラーゼという血栓溶解薬を用いた静注血栓溶解療法や、カテーテル治療(血栓回収療法)が行われます(両者を合わせて再開通療法といいます)。
  • 再開通療法後、あるいは再開通療法の適応とならない場合、まず、脳梗塞の進行・再発を抑えるために抗血栓療法を開始します。いわゆる「血液をさらさらにして固まりにくくする」治療のことです。
  • アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞には抗凝固薬であるアルガトロバン(ノバスタン、スロンノン)、抗血小板薬であるオザグレル(カタクロット、キサンボン)などが点滴で投与されます。
    内服薬として、アスピリン(バイアスピリン)、クロピドグレル(プラビックス)、シロスタゾール(プレタール)を単剤、あるいは併用して投与します。
  • 心原性脳塞栓症には抗凝固薬であるヘパリンの点滴投与が行われますが、これらの薬剤を投与すると出血性変化を来たす危険性がある場合は、しばらく待機してから開始する場合があります。
  • 梗塞部位が大きく、むくみの進展による症状の増悪が危惧される症例には抗浮腫療法であるグリセオールが点滴されることがあります。また、わが国で開発された脳保護薬であるエダラボン(ラジカット)も使用されます。

再発予防は?

脳梗塞の原因(=病型)や併存疾患を、頸動脈超音波検査、経胸壁心臓超音波検査(TTE)、経食道心臓超音波検査(TEE)、ホルター心電図、下肢静脈超音波検査等により、評価を行います。脳梗塞は、主に動脈硬化および心房細動などの不整脈・心臓病が原因となります。

また、動脈硬化の原因には、「加齢」「喫煙」「高血圧」「脂質異常症(高脂血症)」「糖尿病」などが知られており、これらと先ほどの心房細動なども含め、脳梗塞の「危険因子」(その病気の発症する危険性を高めることが知られている生活習慣や体質的な素因、または病気)といいます。

これらを適切に管理することが、脳梗塞を再発させないために重要です。抗血栓療法と合わせ、これら危険因子の治療も行っていきます。また、脳血管や心臓に対し、カテーテル治療や外科治療を行って再発予防に努める場合もあります。

抗血栓療法としては、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞では、抗血小板薬であるアスピリン(バイアスピリン)、クロピドグレル(プラビックス)、シロスタゾール(プレタール)を単剤、あるいは併用して投与します。

心原性脳塞栓症では、抗凝固薬であるワルファリン(ワーファリン)、ダビガトラン(プラザキサ)、リバロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、エドキサバン(リクシアナ)のいずれかを、患者さんの病態に合わせ投与します。抗血栓療法は出血の危険性を高めることもありますので、主治医の説明を良く聞き、指示を守りながら内服を継続します。

リハビリテーション

脳梗塞は入院後、さまざまな検査で脳梗塞の原因を特定し、再発予防のための薬物療法とリハビリテーションを並行して行なっていきます。

症状が完全に回復するか、あるいは後遺症が軽度で済んだ場合、自宅退院となり日常生活・社会生活への復帰となりますが、集中的なリハビリテーションが一定期間(数ヶ月程度)必要な場合は、回復期リハビリテーション病院に転院し、リハビリテーションを行う事となります。
転院の調整は医療ソーシャルワーカーがご家族と相談しながら進めていきます。

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 早川 幹人)