脳卒中の応用知識
About Stroke

A-04.頚動脈ステント留置術

頚動脈ステント治療とは
どのような治療ですか?

ステントを使った血管内治療です。

狭窄した血管に、ステントという筒状の機器を留置し、血管を広げる治療です。

利点は切開が不要であることで、合併疾患により全身麻酔の危険性が高い人や、高位病変、再狭窄、放射線治療後病変など外科手術が困難な人に向きます。欠点は病変であるプラークを摘出できないことです。

ステントを使った血管内治療
図1:ステントを使った血管内治療

どのような人に治療が必要ですか?

内科治療のみでは脳梗塞を予防できない人です。

  • 脳梗塞・一過性脳虚血発作を起こした
  • 高度な狭窄
  • 無症状だがMRIで脳梗塞がある
  • 狭窄が進行する
  • 超音波検査やMRIで不安定なプラークが確認された
  • 脳血流が低下している

治療方法

治療は血管造影室で行われます。

足のつけねのところに局所麻酔をして、カテーテルと呼ばれる直径3mm程度の管を狭搾血管の直前まで進めます。そのカテーテルを通して、血管広げるための先端に風船のついているバルーンカテーテルを狭窄部に留置し、拡張します。その後、ステントを狭窄部に留置します。拡張が不十分な場合、さらにカテーテルを交換しステントの内側からバルーンカテーテルで血管を拡げます。

十分な拡張が確認されれば、カテーテルを抜去して、足の付け根の所の止血をして終了します。

治療後は集中治療病棟で、厳重な血圧や脈拍の等の全身管理を行います。通常治療後より飲水は可能で夕食も食べられますが、ベッド上での安静が必要となります。経過が良ければ翌日から歩行可能で、通常1週間以内に退院できます。

頚動脈ステント治療の危険性

血管内治療には合併症の危険性があります。

  • 脳梗塞
    治療中や治療後にプラークから内容物や血栓が脳に流れて脳梗塞を起こすことがあります。また治療後にステントに血栓が形成され閉塞し、脳梗塞を起こすこともあります。(2%程度)
  • 脳出血
    治療前に著しい脳血流の低下がある人は、手術後に過灌流(脳血流の過剰な増加)により脳出血を起こすことがあります。(通常は1%程度、過灌流高危険例では5%程度)
  • けいれん発作
    手術後に過灌流(脳血流の過剰な増加)により発作を起こすことがあります。
  • レントゲン(放射線)による障害
    治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害が起きることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過をみます。
  • 穿刺部の内出血や感染
    太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀)
  • 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
    急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀)
  • 使用機器の離断による遺残
    体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀)
  • 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
    動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀)
  • その他予期せぬ合併症

これらにより入院期間が延長する可能性が3~5%程度にあります。
また、意識、運動(マヒ)、感覚(しびれ)、ことば、記憶、視力視野などの障害や後遺症を生じる可能性が2~3%、死亡する可能性も1%程度あります。

再狭窄について

頚動脈ステント治療は、頚動脈狭窄の原因である動脈硬化症を根治するわけではないので、再度血管が狭窄することがあります。また留置したステントに対し血管が過剰に反応し、血管の内膜が肥厚することあります。高度は再狭窄では追加治療が必要です。

筑波大学附属病院脳卒中科での
頚動脈狭窄症治療

頚動脈狭窄症の方は心臓の冠動脈疾患はじめ多くの併発疾患があり、他科との連携がとても重要です。

筑波大学附属病院は、特定機能病院としてすべての診療科がそろい、高度な医療を提供しています。頚動脈狭窄症の基本は内科治療ですが、狭窄が高度になると外科治療や血管内治療が必要になります。

当科では、内科医、外科医、血管内治療医すべてが診療科に在籍するので、ひとりひとりの患者様に最適な治療を滞りなく提供することができます。また血行再建治療には内膜はくり術とステント治療がありますが、どちらかに偏ることなく最適な方をお勧めし、患者様と相談しながら治療法を決定します。

頚動脈
内膜はくり術
頚動脈
ステント治療
2019年 7 13

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 佐藤 允之)