B-05.脳動静脈奇形に対する手術
脳動静脈奇形摘出術は
どのような治療ですか?
脳動静脈奇形を外科的に除去する手術です。
脳動静脈奇形に対する摘出術の目的は
- 出血または再出血の予防
- 病変による神経症状(てんかん発作、運動機能障害など)悪化の予防
です。本治療は最も確実に病変からの出血を予防できる治療法です。


どのような人に治療が必要ですか?
- 外科的に到達可能な病変
- 出血発症
- 出血はしていないが症状を呈している
治療方法
治療は全身麻酔で行います。
- 皮膚と筋肉の一部を切開して、皮膚を剥離します。
- 頭蓋骨を切開して開頭します。
- 脳を覆っている膜を切開します。
- 手術用顕微鏡で術野を拡大して手術を行います。
- 脳動静脈奇形に流入する動脈を確認して処理していきます。
- その後病変の周囲を丁寧に止血しながら剥離を進めます。
- 病変全貌が確認できるようになると病変へ流入している動脈の勢いは減少してきます。
- その後静脈を切離して病変を摘出します。
- 硬膜を縫合して、一度開頭した頭蓋骨を戻します。
- 側頭筋、皮膚を縫合して手術は終了となります。
脳動静脈奇形摘出術の危険性
- 脳出血
術中、術後に出血をきたすことがあります。(5%程度) - 脳梗塞
術中の手技などで脳梗塞が起こる可能性があります。(2〜3%程度) - 脳組織損傷
細心の注意を払いながら手術は行いますが、脳組織や脳血管を損傷する可能性があります。(重篤なものは稀) - けいれん
術後にけいれん発作を起こすことがあります。(重篤なものは稀) - 髄液漏・髄膜炎
脳を保護する髄液という水分が皮下などに漏出することがあります。また細菌による感染症(髄膜炎)を起こすことがあります。(重篤なものは稀) - 創部に関連するもの
一時的に頭皮の血流が悪くなり、創部が一部壊死したり、傷が開いたり、感染症を起こすことがあります。(重篤なものは稀) - 薬剤に関連するもの
薬剤によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下を起こすことがあります。(重篤なものは稀) - その他予期せぬ合併症
摘出術による神経学的後遺症の発生率は、米国の脳外科医スペッツラーらにより報告されています。
グレード1では数%、2は5%、3は16~22%、4は22~27%、5は17~31%とされています。
死亡率は0~3%となっています。
また2014年以降の当院での神経学的後遺症の発生率は8%です。
筑波大学附属病院での
脳動静脈奇形の治療について
脳動静脈奇形は、部位、大きさ、形、血管の構造がきわめて多彩で、治療は単純ではありません。
また治療の難易度は高く、高度な技術や設備が必要です。筑波大学附属病院には、脳外科医、脳血管内治療医、放射線治療医が多数所属し、多数の医師が一例一例をよく検討し、経過観察を含めた最適な治療法をお勧めします。
特に一般病院では治療が困難なものに対しても、複数の治療を組み合わせた集学的治療で、安全な根治を目指します。
数年前に海外より、出血を起こしたことがない脳動静脈奇形の方に、経過観察と治療した人の経過を比較する試験が行われ、治療により悪化した人が多いことが報告されました。
しかしこの結果には多くの批判がありました。先述したとおりこの病気の1年間の出血率は高いものではありませんが、長期(生涯)にわたる出血率は低くなく、当科では若年の方には根治治療ができないか検討します。その結果、治療のリスクが長期にわたる出血のリスクより低いと判断された場合に根治治療をお勧めします。
塞栓術 | 摘出術 | |
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2019年 | 14 | 5 |
(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 伊藤 嘉朗)