B-04.脳動静脈奇形に対する血管内治療
脳動静脈奇形に対する血管内治療
(塞栓術)はどのような治療ですか?
カテーテルで異常血管を閉塞します。
脳に傷をつけること無く、直ちに効果があります。以下のような目的で治療は行われます。
- 開頭摘出前に一部を閉塞し、手術の安全性を高める
- 放射線治療前に一部を閉塞し、放射線治療の効果高める
- 出血の原因となる動脈瘤や静脈瘤を閉塞する
- 症候を改善するために血流を低下させる
- 動静脈奇形を完全に閉塞する
治療方法
カテーテルという細い管を用いて異常血管を閉塞します。
治療は全身麻酔下に血管造影装置のある特別な手術室で行われます。足の付け根の血管からカテーテルを血管内に挿入し、レントゲンと造影剤を使って透視しながら病変まで導入します。カテーテルからコイルや液体塞栓物質を注入し、異常血管を閉塞します。
治療後はカテーテルを抜去し、穿刺部を止血して、麻酔をさまして専用病棟へ帰室します。
翌日からは歩行可能となり、数日後には退院できるので、塞栓術のみであれば1週間程度の入院となります。
退院後は直ちに通常の生活に戻れますが、運動は外来受診後から再開してください。1回の治療は通常3時間から5時間程度で、数回の入院が必要になることがあります。
塞栓物質について
- コイル
太い流入血管や動脈瘤の閉塞に使用します。 - オニキス(液体)
動静脈奇形の本体の閉塞に使用しますが、カテーテルに制限があります。 - NBCA(液体)
すべてのカテーテルで使用できますが、日本では2020年現在、塞栓物質としての認可がありません(外科用接着剤、胃静脈瘤用塞栓剤として認可済み)。海外では塞栓物質として認可されており、日本でも20年以上前より使用されています。オニキスが使用できない場合、ご本人とご家族に同意がいただければ使用します。
塞栓術の危険性
- 正常脳血管の閉塞による脳梗塞
異常血管のみの閉塞では脳梗塞は生じませんが、正常血管に迷入すると脳梗塞を起こします。(2%程度) - カテーテル操作や血流の変更による脳出血、くも膜下出血
塞栓術では、カテーテル、それを誘導するガイドワイヤーなどの治療機器を脳の血管に誘導します。治療機器は脳の血管に安全に誘導できるように細く柔軟にできていますが、血管には予測できない個人差や疾患による脆弱性があることがあります。また塞栓術後に血流が変わることにより、動静脈奇形から出血を起こすこともあります。(2%程度) - カテーテル操作に伴う血管解離
カテーテル操作に関連し、頭頚部の血管の内側に亀裂が入り、血管の狭窄や閉塞が起こることがあります。その修復のためにステントという金属製の筒を留置することがあります。(きわめて稀) - レントゲン(放射線)による障害
治療時間が通常より長くなると、放射線により一時的な脱毛や皮膚障害が起きることがあります。また白内障や発がんの可能性も報告されています。放射線被ばくが多かった場合には、外来で経過をみます。 - 穿刺部の内出血や感染
太いカテーテルを使用し、血液を固まらなくする薬剤を使用するため、穿刺部の止血は検査の時より困難です。そのため特殊な機器を使用し止血をしますが、稀に内出血や感染を起こすことがあります。その場合は輸血をしたり、外科的に修復することがあります。(外科処置が必要なものは稀) - 薬剤・造影剤・塞栓物質・カテーテル素材によるアレルギー・肝機能・腎機能の低下
急性腎不全では透析が必要になることがあります。またカテーテル素材に対する遅発性アレルギー反応が報告されています。(透析の導入は、慢性腎不全がなければきわめて稀) - 使用機器の離断による遺残
体内留置機器以外のものは治療終了時に回収しますが、稀に離断等により体内に遺残することがあります。(きわめて稀) - 大動脈のプラークの破綻によるコレステロール塞栓症および血管閉塞
動脈硬化がきわめて強く大動脈に大きなプラークがある場合、そこからコレステロールが腎臓・腸管・下肢に飛散し、虚血性合併症を起こすことがあります。(きわめて稀) - その他予期せぬ合併症
これらにより入院期間が延長する可能性が5%程度にあります。また、意識、運動(マヒ)、感覚(しびれ)、ことば、記憶、視力視野などの障害や後遺症を生じる可能性が2〜3%、死亡する可能性も1%程度あります。
筑波大学附属病院での
脳動静脈奇形に対する塞栓術について
脳動静脈奇形の塞栓術は、脳血管内治療の中でも高度な技術と知識が必要です。
当科には、日本脳神経血管内治療学会の認定する専門医が4名、指導医が4名と県内で最も多く在籍し(2020年5月現在)、同学会の研修施設に認定されています。
これまでの多くの治療経験と最新設備を用いて最適な治療を提供します。
塞栓術 | 摘出術 | |
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2019年 | 14 | 5 |
(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 松丸 祐司)