脳卒中の応用知識
About Stroke

B-03.脳動静脈奇形とは?

脳動静脈奇形はどんな病気?

脳の異常血管です。

脳に脆弱(ぜいじゃく)な異常血管の塊(かたまり)ができる病気です。10万人に1人の割合で発症する稀な病気で、若年者の脳出血の原因となります。

原因は不明で、胎児期または乳幼児期に血管網がうまく形成されず、動脈と静脈が直接つながってしまい、そこに多くの血液が流入・拡張し脆弱(ぜいじゃく)な異常な血管網ができてしまいます。奇形という病名がついていますが、血管の形成異常です。

通常血液は「心臓 → 動脈 → 毛細血管 → 静脈 → 心臓」を循環し、動脈の勢いのある血液は細い毛細血管で流れが遅くなり、静脈ではゆっくり流れます。動静脈奇形は毛細血管を欠く異常血管で、動脈血が直接静脈に流れ込みます。そのため静脈の圧力が高まることがあります。

静脈は下水道のような役割があるので、血液の流出がうまくいかず循環障害を生じたり、脆弱な異常血管が破綻し、脳出血やくも膜下出血を起こすことがあります。

脳動静脈奇形の症例
図1:脳動静脈奇形の症例
脳動静脈奇形の症例
図2:脳動静脈奇形の症例
脳動静脈奇形のイメージ
図3:脳動静脈奇形のイメージ

脳動静脈奇形の症状は?

  • 頭痛
  • てんかん発作
  • 脳の循環障害による脳機能障害
    記憶・認知の障害など
  • 脳出血、くも膜下出血
    最も重篤で、突然意識障害、運動障害、しびれ、ことばの障害、視力視野障害、記憶障害等を発症し、半数の方は後遺症や死亡に至ります。

脳出血の頻度は?

1年間に2%程度と考えられています。

また診断時から生涯にわたる出血率は「105~現在の年齢」で推測されます。短期的には出血の可能性は低いですが、長期的に無視できません。

出血を起こしやすい人は?

ひとたび出血を生じると1年間は再出血の可能性が2~3倍に高まります。

また脳動脈瘤や静脈瘤(血管のこぶ状のふくらみ)の合併、静脈の狭小化や流出障害などでは高い出血率が報告されています。

まずはどうすればよい?

症状が全くない場合、運動の制限や生活上の制限はありません。

てんかん発作を起こした方は、抗てんかん薬の服用が必要です。
たばこを吸う人は禁煙すべきで、高血圧の治療もするべきでしょう。
過度の習慣的な飲酒も控えるべきでしょう。

治療を考慮する場合には、入院していただき脳血管造影を行い、最適な治療法を検討します。

どのような人に治療を勧めますか?

  • 出血したもの
  • 症状があるもの
  • 安全に治療ができるもの:小さなもの、脳表面にあるもの
  • 若年者:障害の出血率は105~現在の年齢
  • 脳動脈瘤、脳静脈瘤の合併あるいはその増大

どのような人には経過観察を勧めますか?

  • 治療のリスクが高いもの:脳深部にある大きなもの
  • 高齢者

治療方法

  • 手術による摘出
    開頭し顕微鏡を使いながら摘出する方法で、治療後ただちに出血を完全に予防できるため、出血例や脳の表面にある場合に勧めます。しかし脳深部のものや大きなものは危険性が高い場合があります。
  • カテーテルによる血管内治療(塞栓術)
    カテーテルという細い管を用いて異常血管を閉塞する方法で、開頭が不要で直ちに効果がでるため、小さなもの、動脈瘤を合併するもの、開頭術前や放射線治療前に施行されます。しかし単独で根治できることは稀です。
  • 放射線治療
    放射線を外部から照射し閉塞させる方法で、治療直後の合併症が無く、脳深部の小さなものに勧められます。しかし完全閉塞まで2年程度かかるため出血例には適さず、大きなものにも適しません。また治療数年後に放射線による障害が出現する可能性があります。

治療は、場所、大きさ、形により最適なものを選択します。
また筑波大学附属病院では治療の安全性を高めるために、これらの治療を組み合わせる集学的治療を行います。

筑波大学附属病院での
脳動静脈奇形の治療について

脳動静脈奇形は、部位、大きさ、形、血管の構造がきわめて多彩で、治療は単純ではありません。
また治療の難易度は高く、高度な技術や設備が必要です。

当科には、脳外科医、脳血管内治療医、放射線治療医が多数所属し、多数の医師が一例一例をよく検討し、経過観察を含めた最適な治療法をお勧めします。特に一般病院では治療が困難なものに対しても、複数の治療を組み合わせた集学的治療で、安全な根治を目指します。

数年前に海外より、出血を起こしたことがない脳動静脈奇形の方に、経過観察と治療した人の経過を比較する試験が行われ、治療により悪化した人が多いことが報告されました。

しかし、この結果には多くの批判がありました。先述したとおりこの病気の1年間の出血率は高いものではありませんが、長期(生涯)にわたる出血率は低くなく、当科では若年の方には根治治療ができないか検討します。その結果、治療のリスクが長期にわたる出血のリスクより低いと判断された場合に根治治療をお勧めします。

塞栓術 摘出術
2019年 14 5

連携施設での治療件数を含む

(文責:筑波大学附属病院脳卒中科 松丸 祐司)